鉄血宰相ビスマルクの有名な言葉「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」。正確には、「愚者だけが自分の経験から学ぶと信じている。私はむしろ、最初から自分の誤りを避けるため、他人の経験から学ぶのを好む」と言ったそう。

お店の出店や経営は大きなコストと労力を投資するもの。全てを自分の経験だけで学んでいったら大変です。避けられる失敗はせず、より早く楽に成功へ近づくために他人の成功談・失敗談から学びましょう。まずは20年近く飲食店オーナーだった私の経験からシェアさせていただきますね。

 

〈物件探し〉

知名度ゼロの一店舗目BAR Cactusの出店場所は、人目につきやすい〈路面店or専用階段のある地下or道路側の2階〉に絞り、ここだ!と思う場所に出会うまで半年くらいかけて慎重に探しました。大阪ミナミの歓楽街エリア。決めたのは、駅の隣の路面店で、周囲には商業施設やオフィスやマンションが混在し、ビジネスホテルも多い、BARをやるのにもってこいの物件でした。お店は17年弱続けましたが、「前から気になってた」「バーがあったからふらっと入ってみた」とほぼ毎日一見さんが来店されていました。特にSNSや販促に力を入れたわけでもなく自然とです。

 

最初のうちはお祝いがてら知り合いや友達が来てくれますが、しばらくすると客足は落ち着いてしまいます。口コミで来ていただくのももちろん大事ですが、時間が掛かります。継続した集客にはやはり近隣の住民や仕事帰りに立ち寄ってくださる方達の目に触れ存在を知ってもらうことが重要なんだと改めて実感しました。

 

教訓:ローコストで集客を仕組み化したいなら、まずはターゲット層の目に触れ続ける立地にこだわるべし。

 

BAR Cactusをオープンして二年後、空き店舗が出たから二店舗目をださないかと声がかかり物件を見に行きました。当時繁盛店に育っていたBAR Cactusの成功に気が緩み、私は物件を見るなり即決してしまいました。お店は、大阪・キタ最大の歓楽街を通る東通り商店街にはあるものの、雑居ビルの4階で場所がわかりにくく、周辺の道路はキャッチの人間だらけ。オープンしてももちろん一見さんなどほとんど来ませんでした。

店長の知り合いやBAR Cactusのお客様が近くに来られたら立ち寄っていただくというような細々とした集客状況。まだレストランなら探して行く方も多いですが、バーは食事の後に近くで立ち寄る方が多いので、まだその土地で知名度がないなら、わかりやすい立地にするべきだったと後悔しました。手前味噌ですがお店自体はクオリティも雰囲気も良く、スタッフも頑張ってくれましたが、お客様が入店に至るまでが非常に苦戦したのです。

 

教訓:どんなに良いお店でも物件の選択を誤ると大失敗。

 

三店舗目の出店。二店舗目の教訓を生かし、一店舗目と同様慎重に探しました。BAR Cactusから徒歩5分程の同じ筋、駅近の路面店でわかりやすい立地。両店の距離が近すぎると周囲に指摘されましたが、それぞれの最寄り駅が路線ごとに異なっており、全く違った行動エリアのお客様が呼び込めると踏んでCactus Cantinaをオープン。

共通のお客様もいましたが、メンバーや日によって使い分けていただいたり、二店舗のハシゴを楽しんでいただいたり、もちろん当初の読み通り別エリアの新規のお客様や一見さんも多く場所の大切さを改めて感じました。ちなみに、近所に姉妹店があると、お酒や切れた食材の貸し借り、万が一の時のスタッフの応援要請もできてとても便利ですよ。

 

教訓:改めて、ターゲット層の目に触れ続ける立地にこだわるべし!

 

〈人材育成〉

私が初めてお店をオープンしたのは27歳の時。経営者になるのもスタッフを抱えるのも初めて。常に必死で、気持ちが張り詰めていて全く余裕がありませんでした。オープン時は忙しくてバタバタ、少し落ち着いてからも暇な時間があれば、あれしてこれしてと常に指示していたように思います。その頃、アルバイトの女の子が辞めてからお店に遊びに来てくれた時に、「正直ガソリンスタンドのバイトよりきつかったです」と笑いながら言われました。

採用時に前職のガソリンスタンドの仕事を“結構きついです”と言っていた子。ということはよっぽどキツかったのかと、ショックでした。よく考えてみれば自分も学生の頃のアルバイトでは、店長の目を盗んで同僚と会話したり、こっそり息抜きしたりしていました。だからこそ長続きしたんだなと。

 お給料が発生している分、経営者としてはどうしてもあれもこれもと完璧を求めてしまいがちですが、相手は人間でロボットではないのです。ようやく経営者として仕事に余裕が出てきた頃に得た気付き。それからは、暇な時間はスタッフと雑談したり、要所要所のチェック以外は多少スルーして息が抜ける時間を作ったりしました。そのおかげか、スタッフの平均勤続年数が10年前後と、人員回転の早い飲食業の中では珍しいお店になったのです。

 

教訓:スタッフに長く勤めてもらうには適度なゆるさも大切。

 

〈事前挨拶〉

二店舗目オープン直前、一店舗目の運営との両立で忙しく、事前のご挨拶はDMで済ませました。少ししてからお世話になっている先輩に、挨拶にも来ないでハガキだけ送ってくるとは何事だ、と叱られました。最初は腑に落ちなかったのですが、よく考えてみると確かに失礼だったなと反省しました。相手に自分の店へ来てくださいとご足労願っているくせに、自分は多忙を言い訳にハガキ一枚で済ませたのですから。

逆に誰かが新店オープン前にわざわざ挨拶に来てくれると、人情として絶対に行ってあげたいなと思います。いくら便利なネット社会になっても、人の心に届くのはアナログが強い。昨今の情勢で対面が厳しい場合、DMやメールではなく、直接電話する、直筆の手紙を書くなどでも誠意は伝わります。

 

教訓:オープン前の挨拶はできるだけ直接足を運ぶかアナログな方法で。

  

〈餅は餅屋〉

私は、メキシコ以外のお酒の種類をあまり知らず、カクテルも作れないのにバーを出しました。腕の良いバーテンダーにお願いすればいいと思っていたので。そして良い人材に出会え“テキーラと言えばBAR Cactus”と言われるお店に成長しました。

 

経営につきものの経理業務。個人店では自分でされる方も多いでしょう。得意な方はそれでもいいと思います。が、私にはストレスばかり溜まる作業なので始めから税理士さんにお願いしました。もちろんお金はかかります。ですが、毎月230時間、さらに年に一回の確定申告にかかる膨大な時間、複雑な税務知識による仕分けの労力、それらを考えると費用対効果はプラスです。

浮いた時間と労力を店の経営に割く方がよほど建設的。更に税理士さんは税金の最新知識や節税の工夫、お得な情報等を持っているので、色々教えてもらえメリットがいっぱいありました。

 

教訓:無駄な時間と労力は不要。その道のプロにお願いしよう。

  

〈郷にいれば郷に従え〉

昔、沖縄出身のスタッフが、大阪に出てきて初めて勤めた職場で「日本一ゆっくりな所から日本一忙しない所にきたんだから、ペースをあげないとダメ」と叱られたと話していました。今、私は飲食店コンサルタントとして関西以外の地域でも関わりが増え、その土地の感覚に合わせることの大切さを実感しています。私は大阪出身なので、ちょっと“イラチ” (関西地方の方言で「せっかち」「気が短い」という意味)かもしれません。

でも、のんびりした土地柄の中で、自分の(大阪の)感覚で早く早くとテキパキ動いたり完璧に整えたりすると居心地の良いお店にはなりません。その土地の方が心地よいペース、空気感を肌で感じてそちらへシフトチェンジすると途端にうまく回り出します。働くスタッフも来るお客様もみんなその土地の人なのですから、こちらの感覚を押し付けては失敗するのは当然ですね。

 

教訓:初めての土地で商売をする時は、その地域の習慣、県民性、時間感覚などをきちんと調べて合わせましょう。

 

 

いかがでしたか?

これからお店を始めようとする方向けに5ジャンルに絞って書いてみました。これを読まれた皆様が私の教訓から学んで、スムーズに飲食店経営の道へ進まれることを願っています。そして何か行き詰まりを感じた際には、M A S A K Oへお気軽にご相談くださいね。